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2015年09月04日
中野敏清著『新・堺鑑―郷土文化のある風景』が ・「出版ニュース」9月上旬号 ・9月5日付「図書新聞」 で、紹介されました。 「図書新聞」掲載の書評についてはこちらからご覧いただけます。

カテゴリー:ニュース

古代から現代まで、
日本史において重要な位置を占める都市・堺

都市の膨張に対する疑義を真摯に呈する

 

山井 悟


 中野敏清 著
▶『新・堺鑑―郷土文化のある風景―』
 6・20刊 四六判 212頁 本体2300円


「郷土誌」というものは、その土地に長年暮らしている人たちにとって、自分たちのアイデンティティのようなものを確認する手立てとなるといえるし、故郷を遠く離れて暮らす人たちにとっては、生地への想いを確かなものとしてかたちづくってくれる契機となるはずだ。しかし、それ以外の人たちにとってみれば、なにかを論及していくための資料(テクスト)としての意味を有することはあっても、ほとんどは関心外のこととして見做されてしまうに違いない。だが、本書は幾らか違う相貌を持った「郷土誌」だといえる。それは、堺という都市が、古代(未解明な部分もある河内王朝の時間を持っているし、なんといっても、しばらく仁徳陵とされてきた大仙古墳をはじめ、貴重な古墳群が点在している)から近現代までの時間を、日本の歴史のなかでも極めて重要な位置を占めているからだ。郷土史がそのまま、日本史の一端を示しているといい換えることもできる。もう一つの側面として挙げることができるのは、大都市に近接する中核的な都市(実際は人口八十万人を超えて、06年に政令指定都市となっている)の変貌のあり方が、これからのわたしたちの暮らしの場所にどんな影響を与え、様々な障壁をどう超えていくべきなのかということを、示唆を含みながら著者が記述していることにある。大阪市と堺市の市境を流れる大和川は、江戸期に柏原から「直角に北に向かって淀川」と合流していたのを付け替え工事によって、人工的につくられたものだという。やがて明治期に入って、大和川によって出来た自然の埋立地に工業地帯が広がって、堺は発展していった。
「昭和三十年代から始まった、新大和川で遠浅となった堺の海をすべて人工的に埋め立て、一大臨海工業地帯としたことは、戦後の日本の発展の一翼を担ったといわれている。/しかし、古来より風光明媚なところとして知られ、別荘地として、また海浜の松林の公園として、人々に親しまれていた浜寺公園は、元の海は水路として残されているが、松林の向こうに見えるのは紺碧の海ではなく、工場群となってしまった。/堺の海はすべて工業用地となり、人々は海辺にすら行くことができなくなっている。淡路島を望む大阪湾を眺めることはできない。人々は海を奪われてしまったのである。」
 著者は、このように述べて都市の膨張に対する疑義を真摯に呈して本書を閉じていく。

 

                    (フリーライター)

 

※9月5日付図書新聞より転載