暮らしのとなり 森 哲弥 随筆集
- 著者
- 森 哲弥
- サイズ
- 頁
- 210ページ
- 製本
- ソフトカバー
- ISBN
- 978-4-86000-223-7 C0095
- 発行日
- 2011/12/01
- 本体価格
- 1,800円
考えるよろこび ― 暮らしの水源
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ようやく、とても身近な「森さん文章」に出会えました。
たぶん、私も含めたかつての仕事仲間がこの本を手にした時、
私と似た感情を抱くと思います。
これまで発表された詩集とは違って、
同じ時代のよく似た環境と暮らしの中で、
森さんの心をとらえたことごとをつづった随筆集です。
(田辺久子「まあおひとつどうぞ」より)
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赤とんぼ
秋は、空のすみっこに
よくとがった赤鉛筆で
片仮名の「キ」の字を
そっと書くのです
子供たちは、めざとく
それに気づくのですが
大人が空を見上げたときは
もう、風の消しゴムが
消しさった後なのです
季節の移ろいの中で、時の襞と人間の意識の襞のあわいを、できれば澄んだ初秋の
風景のなかに溶け入りたいと願いつつ赤とんぼはいよいよ身をきりりと引き締めて、
今日もどこかの空を飛んでいるだろう。風の消しゴムに消されぬ先に、赤い「キ」の字を
見つけねばならぬ。少年の瞳輝かせて。
(「空に『キ』の字」より)