童話集 アジサイねこ
- 著者
- 冨永香苗
- サイズ
- 縦190ミリ×横180ミリ
- 頁
- 200ページ
- 製本
- ハードカバー
- ISBN
- 978-4-86000-475-0 C0095
- 発行日
- 2022/08/01
- 本体価格
- 1,200円
こころの忘れものを発見しよう!!
冨永香苗さんの作品を読むと、いつも胸に小さな渦巻きが生まれます。
渦巻きは胸の底をかき混ぜ、思いがけない地層を刺激して、眠っていた
記憶を呼び起こしてくれます。そして、紡ぎ出された物語にいつしか自
分を重ね、深く共感するのです。現実には起こり得ない物語も、絵空事
ではない真実が含まれているからでしょう。
(中島和子・童話作家)
* も く じ *
菜の花びより
ミイちゃんの夏
おじいちゃんとフラフープ
ことば屋
二番目のかみさま
アジサイねこ
こゆき
影みがき屋
ももいろの犬
ゆうれいツアー
ミミズクの家
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「どうにもならないことはたくさんあるよ」
ぼくの心を読むみたいに、突然、隣の閉まったカーテンから声が聞こえた。それが、あのおじいさんだとわかっても、もう涙は止まらなかった。
「アジサイねこを貸してあげようか」
「アジサイねこ?」
無視するつもりが、思わず返事していた。
「そう。ねこだ。でも、ねこっていったって、このねこは特別なねこだよ。アジサイの季節にしか出てこないから、おまえさんはいいときに入院したわけさ」
窓から差す月明かりを受けて、カーテンにおじいさんの影が揺れていた。あんまり、やさしい影だったので、思わず引きこまれて返事していた。
「でも・・・、そのねこ、どうすればいいの?」
「どうもこうも、ただしっかり抱いてやれば、いいんだよ」
影のおじいさんがまたやさしく揺れた。
(「アジサイねこ」より)
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