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2018年07月01日
☆横山千女著『猫(チャッピー)に学ぶわかりやすいスピリチュアル入門』大好評につき二刷出来! ☆山本由美子詩集『霧の中のブルー・BLEU BROUILLARD』が6月26日付「神戸新聞・詩集-生命の賛歌に耳傾けて」で紹介されました。 ☆リジア・シュムクーテ詩集、薬師川虹一訳『白い虹』が6月4日付京都新聞「詩歌の本棚」で紹介されました。 ☆後恵子著『ネパールの生活と文化―教育支援(NGO)を始めて』が日本ライトハウスより録音制作されました。 ☆尾崎まこと写真集『大阪・SENSATION この一瞬その永遠』の書評が2018年2月3日付「図書新聞」に掲載されました。こちらからご覧ください。

カテゴリー:ニュース

                       ☆2018年2月3日付け図書新聞より

 

超アジア的な大阪を切開
これまでの都市写真集と違う相貌を見せている

 

室沢 毅


▶尾崎まこと写真集
『記憶の都市「大阪・SENSATION」――この一瞬 その永遠』
 2017.5.26刊 A4変型判80頁 本体2700円

 

 都市を主題とする写真集は、それほど珍しいものではない。ただし、わたしが目にした既知の都市写真集は、モチーフを何処かの場所に特化することが多い気がする。東京なら下町風景が残存する場所であり、「江戸」的風情を醸し出す場所であるように。東京にしろ、大阪にしろ、大都市における現在は、過去を投影させながら未来を予知するものを胚胎させているといっていいかもしれない。たえず変貌させながらも、消えることのない古層の時間性というものを感知させてくれるといい換えてもよい。しかし、本書は幾らかこれまでの都市写真集と違う相貌を見せている。
 表紙側の見返しには、鉄道が左側を走り、駅舎らしきものを高層ビルが立ち並ぶなかに捉え、広角で撮った俯瞰写真を配置する。裏表紙側の見返しは、かなり高い位置からの大都市大阪の夜景写真である。といっても京都や神戸と違って、これまで大阪には数度しか降り立ったことがない東京在住のわたしにとって、東京や横浜の夜景写真だといわれれば、そうかと思わざるをえないものだともいえる。
 扉の次に来る頁にあるのは、円いテーブルのようなものが暗い部屋の中にあり、狭い入り口から部屋の外にいる親子連れを遠景で捉える写真だ。次の見開き頁は、大きな建物のコンコースのような場所を多くの人たちが往来する様相を俯瞰で捉えていく。そして次は見開きで三枚の風景写真の後に、「この一瞬 This Moment」の文字が記された頁を入れ、歩く人たちの写真が続く。映画やテレビ映像、小説(例えば、黒川博行作品)などでしか、大阪という都市を感受してこなかったわたしですら、本書は、本当に大阪を主題とした写真集なのだろうかと思いながら、ほぼ中間の頁にあたるところで、歓楽街の写真二点に出合う。右下の写真には、通天閣を背後に、「新世界日本一の串カツ横綱酒処」の看板が幾つもある店頭に〝ビリケン像〟があるのだ。次の見開き頁も、別の場所での〝ビリケン像〟を大きく捉えた写真だ。以降は、男の顔と女の顔をアップで捉えた写真二点が続き、〝風景〟が抽象画のように、現実の大阪という場所から切り取られていく。わたしは、大阪に関心がありながらも、なにも知らずに時間を重ねてきた時、デビュー作(『どついたるねん』)から作品を観続けていた阪本順治の『ビリケン』(1996年)を観た。その時初めてビリケンという〝存在〟を知り、不思議な笑いを醸し出していく活劇を通して、大阪のひとつの象徴かもしれないビリケンを強く刻みこまれた。
 もちろん、札幌、仙台、東京、横浜、名古屋、福岡、そして大阪(神戸、京都)といった大都市(政令指定都市)群は、それぞれ地域性のようなものを潜在させていたとしても、都市の像というものは、共通の様態を示しているのが、現在という時空間であるといっていい。もはや銀座や浅草が、東京を象徴する場所ではないように、新世界だけが大阪を象徴化してきたわけではないのだ。それでも都市(あるいは町や村)には、それぞれの〝貌〟は、あるはずだ。本書をこれまでの都市写真集と違う相貌を示しながらも、まぎれもなく都市(大阪)を映していると見做せるのは、ビリケンを含む二枚と、「イキイキ健康サロン」の店頭を見開きで見開きで捉えたもの、「てんのうじどうぶつえん」の閉じられたゲートの夜の写真を挟みこむように抽象性(あるいは詩性といってもいい)を持った、都市像を表出しているからなのだ。なかでも強い印象を受けた写真を、敢えて挙げてみれば、先に述べたコンコースの写真、二列の列車を俯瞰で捉えた駅の写真、日没の桟橋のような場所を活写したものである。これら三枚の写真は、二列の列車像が、都市の内と外を繋いで、わたしの感性の巾に物語を喚起してくれたといえる。著者は本書の帯で、「大阪は古来、北から西から南から、アジアとその周辺の人々が海を渡り、陽の沈む方向より陽の昇る方向を目指して上陸した」と記しているのだが、リドリー・スコットの『ブラック・レイン』(1989年)で描出されるアジア的な大阪から、超アジア的な大阪を切開したのが、本書であるといいたくなる。


             ※図書新聞様の御厚意により転載させていただきました。